[外国人材による日本の看護・介護現場の実情と課題]
2010年10月5日
(有)コマツライジング
代表取締役 小松 籟
(一)序文:現状把握
主題に関しては、笹川平和財団主催(09年1月15~16日・於日本財団)「國際ワークショップ」(クリック4-1)にて討議されたのがきっかけとなり、昨今、漸くマスコミにも頻繁に取上げられるようになり、 事態の深刻さが国民の反響を呼ぶことになったが、元来2004年度、日本~フィリピン2国間経済連携協定・FTA(クリック19)発足にその端を発している 所謂、団塊の世代の高齢化に伴って5~10年後には10~20万人単位で看護・介護分野の人手不足が予測されるのに対して、国(厚生労働省所管)は何等ビジョンを示すこともなく、
外国人材の育成支援は全て現場へ丸投げしており、外国人活用の展望は未だ開けていない。これは受入国と送り出し国(フィリピン、インドネシア)にとって誠に不幸なことであり、
正に需要と供給のミスマッチ以外の何物でもない。(クリック7)。かたや日本人でありながら、中国老人達を支援する立場に立つ本提言・「中国・未来の老人介護福祉」を掲げて、 早や7年有余を経過する中、冒頭の笹川平和財団主催「國際ワークショップ」に参加する機会を得て、一大転機を掴む事が出来た。
それはこのたび更新したHP「第二章第1項新展開シナリオイメージ構図第Ⅵ項・提言実現の糸口・キャッチフレーズ『日中間の介護現場人材育成需給ミスマッチの解消』」
と首題「外国人材による日本の看護・介護現場の実情と課題」との関係が、実は共通のプラットホームに立つことを理解できたからに他ならない。これにより、
これまで活動の行く手に立ちはだかっていた、何か得体の知れない大きな「壁の正体」が見えてきた。以下に、その「壁の正体」を明らかにするとともに、その壁を乗り越える道筋を示す。
(二)キャッチフレーズ「日中間における介護現場の人材育成需給ミスマッチの解消」:
中国人留学生(介護分野)人材育成計画概要(3万人/10年間)工程表{國際厚生事業団(jicwel)及び国際研修協力機構(jitco)との比較考察}
1.工程表の趣旨:
下記工程表はキャッチフレーズ「日中間における介護現場の人材育成需給ミスマッチの解消」を具体化実現するための工程を示す。工程表の座標軸は、現行の外国人看護師・介護士研修生受け入れ制度と比較考察する必要から、
同じく開発途上国の人材育成事業に携わる国際研修協力機構が使用する教材マップの座標軸(クリック20)をそのまま使用し、表示内容を夫々の事業背景概要と置き換えて、共通するプラットホームに立って比較考察することとした。 これにより、前述の得体の知れない「壁の正体」の存在を検証する。
2.中国人留学生(介護分野)人材育成計画概要(3万人/10年間)工程表:
1)工程表(座標軸)の見方:
- 座標軸:
縦軸=成果、横軸=タイムスパン
- 工程表の仕組み(メカニズム):
第①工程(逆時計回り)が起点となり、第②工程(時計回り)、第③工程(逆時計回り)、第④工程(時計回り)の連鎖的循環回路をとる仕組み。循環を繰返しながら各①~④工程の内容は質・量共に充実する。
- 工程表の起動:
「中国人留学生(介護分野)人材育成計画概要(3万人/10年間)」推進が呼び水となって、日中経済交流圏の市場メカニズムが自ずと機能し、工程表の連鎖的循環回路が起動し始める。即ち、この工程表は第①~④までセットになって初めて起動する。因みに、単純に中国人留学生受け入れの第③工程単独では機能しない。また、日本に数多ある介護専門学校(高校・大学)が個別に単独(第④工程)で行動しても、留学生を動機付けることは出来ないように…。尚、工程表には本提言「中国・未来の老人介護福祉」実現の必須要件が全て凝縮していることを示す。(クリック2-❾)
2)第①~④工程機能(役割)概要:
- 第①工程:
※①(仮称)アジア介護福祉開発機構設立:
日本の総力を結集するための活動組織母体。上記工程表を起動させるための第一歩。グローバル化が進む世界情勢の下では、既存の国際機関(UN,WTO,0ECD,IMO・・・)等に代わり、
国と国の枠組みを超えて対応出来る、新たな活動組織を求める時代の要請がある。同機構設立はその要請に応えるもの。詳細は(提言実現のカギB)参照
※②機構事業白書:
社会福祉先進国・日本として、中国をはじめとするアジア地域諸国に対して貢献している実態を、白書で以って情報発信する。中国事業展開支援はその試金石として重要な意義をもつ。
- 第②工程:
※③日中介護合弁企業設立:
中国事業展開の活動拠点とする。第一義的に重要なことは中国人留学生(介護部門)を動機づけるために、近未来の事業展開構想(グランドデザイン)を情報発信すること。
※④プロジェクトターム20~30年:
人口13億人・中国。既に「寝たきり老人1000万人超」と言われる現状に対して、賦与される最大限の時間的猶予。待ったなし、正に時間との闘い。国家喫緊の課題。
- 第③工程:
※⑤「介護福祉」専門学校(高校・大学)がそもそも存在しない中国社会に於いて、日本留学を動機づけるためには前述・更新HP・本提言「中国介護福祉元年概念図表」による将来の明確なグランドデザインを示し、
希望ある未来社会を築く幹部候補として、その資格を取得できる道筋を示す。
※⑥授業料:
50~100万円/年間。これに見合うグランドデザインを示すことが必要となる。
※⑦中国人留学生の「就労」資格取得:
日本での「就労」資格取得は日本留学を動機付ける重要な要件であるが、現状では、結婚して日本国籍を持つか、永住権を持つ人に限られる。仮に国家試験に合格しても「就労」出来ないと言う、
真に奇妙極まりない「法制度の壁」が立ちはだかる。前述の法務省法令該当項目に「介護」を追加改正が緊急に求められる所以。何故なら、留学生にとって日本での就労所得1年分は自国で得られる5年分に相当するから。
- 第④工程:
※⑧授業料収入:
これによって市場メカニズムが起動し始める。経済効果は数十億円~百億円が見込まれる。
※⑨博士修士課程:
10年後の中国に介護福祉専門学校が設立されるためには、留学生3万人の中から少なくとも1000人規模単位の応募を期待したいところ。
3)考察:工程表の連鎖循環回路が起動する前提条件
- 現行の法務省法令「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号」(以下「出入管法」と称す)の改正。現行「出入管法」では医療関連職種14項目が認可されているが、
その他に、新たに「介護」職種1項目を追加改正することを前提とする。この前提条件が整えば、中国人学生に対して、「介護分野」での日本留学を動機づけることが可能となる。
これにより自ずと、工程表は機能し始める。日本側がとるべき最優先事項は「出入管法」改正である。
- (仮称)アジア介護福祉開発機構設立構想。
日本が「老人介護保険制度生誕10周年」を迎えることにより体験した貴重にして膨大な介護福祉ノウハウの「宝の山」は、3万人/10年間の中国人留学生が研修・習得し得る最小限度の単位。
これに対して逆の流れ、即ち日本人教師を中国現地へ派遣して学習・指導することは「言葉の壁」があってあり得ないこと。また日本に数多ある介護福祉専門学校や施設・病院でも、単独では対応不可能。
工程表の連鎖循環回路を起動させるためには、「介護福祉先進国・日本」としてその総力を結集しなければならない。そのための前提条件が首記・機構設立構想である。
その理由は、現行の外国人看護師・介護士研修生受け入れ制度は、「既得権益集団」の独占事業化により、折角の「介護福祉サービスの宝の山」が「宝の持ち腐れ」になっている、日本社会が抱える背景(裏事情)である。以下後述第(三)-1,2参照。
(三)国際厚生事業団及び国際研修協力機構との事業背景比較考察
以下に示す構図は前出(第二章)の工程表と同一のプラットホームに立って比較考察するために、昨今のマスコミ報道やインターネット検索(クリック7、クリック9)から得た情報をもとに、これ等事業背景を要約・構図化したもの。
1 国際厚生事業団(JICWELS)の事業背景構図
備考:事業特性考察
- 事業沿革
08年度、インドネシアEPAを契機に、国際厚生事業団を事業主体とする看護師・介護士受け入れ制度が正式に発足した経緯があるが、元来、04年度フィリピンFTAにその端を発している。(クリック19)
- 独占事業・利権の構図➊〜➎流れ(仕組み)の背景
- 「介護」職種だけを除外した現行・法務省法令「出入管法」に依拠(口実に)する事業。
- 開発途上国人材育成を名目とするODA20億円の支援事業として運営。
- 厚労省OB(次官クラス)の天下り指定席。
- 研修生受け入れ窓口・ビザ発給手続、前期研修指導、研修生斡旋、斡旋手数料その他研修費用徴収、国家試験実施
- 問題点
- 研修制度のビジョンすらなく、研修指導業務の実態は施設・病院へ丸投げされており、その上、斡旋手数料他おもピンハネするありさま(実情)。
- ODAは本来開発途上国側へ還元されるべきもの。それが大半、「利権の構図」の組織維持目的に費やされている。「国家試験合格率実績1%」が如実にそのことを物語る。
- 現状では、大半の研修生が国家試験不合格にて強制国外退去されることが予想されるが、この間に要した研修経費は、税金の無駄使いに他ならない。
- 国政・行政がなすべきことは、現在、推定10万人とされる離職中の日本人介護士への優遇措置問題と併せ、超少子高齢化社会へ向かう日本が持つべきビジョンを示すことである。
これに対して、現状の外国人看護師・介護士受け入れ制度は、折角のEPA・FTA精神にももとる、いかにもセコイ制度の実態。
ビジョンのかけらも見えない。このようなことではアジアにおける国際的信用をも失墜させかねない。最早、国政・行政まかせでは埒はあかない。抜本的対策が急務となるところ。
2 国際研修協力機構(JITCO)の事業背景構図
考察:事業特性考察
- 事業沿革
- 1991年、開発途上国の技術者、熟練工の研修制度として発足。当時は、日本企業の海外進出による、日本の産業空洞化真っ盛りの時期。
- 制度誕生20年経過の現状
- 構図➊〜➏の役割は既に終了。制度見直しの時期。
- 現在,常時滞在中の20万人は構図➍団体監理型に属する。彼らの低賃金労働が社会問題化している。(クリック㉑)
- 外国人研修生5~6万人/年、常時20万人在留している。その中で、中国人が80%を占める。実情は、彼ら多くは出稼ぎ労働者。不法滞在、犯罪事件も後を絶たない。
- 課題
- 構図④団体監理型の実態の80%が中国人の出稼ぎ労働者と言う実情と、前出第一構図の現行法「出入管法」による「介護」職種就労不可の矛盾点。
つまり、中国人留学生(介護部門)は日本人と同一条件で介護士国家試験(2級職)の受験資格を取得できるが、たとえ合格しても就労不可と言う矛盾に今後如何に対応すべきか。
関係筋の情報によると、法務省は就労認可に前向きだが厚労省は消極的である由。
- 国際研修協力機構、海外技術者研修協会及び國際厚生事業団の相互依存関係が利権の構図の背景にあることは想像に難くない。縦割り行政の弊害が指摘されるところ。
(四)総括:検証・見えてくる得体の知れない「壁の正体」
- 「出入管法」改正を阻む「利権の構図」:
「利権の構図」の存在は、前出三つの構図との比較考察から検証される。 現行「出入管法」に規定された医療関連14職種から、唯一欠落している「介護職種」を追加改正することを前提とする第一工程表に対して、
その欠落している「介護職種」につけこみ、独占事業化している第二、第三の構図が抵抗勢力となるであろうことは、改めて論ずるまでもない。 そもそも04年度、フィリピンFTAに端を発する看護師・介護士受け入れ制度(クリック⑲)が、いつの間に、既得権益集団のための「利権の構図」に化けてしまったのであろうか? これはODA支援事業の美名の下に、日本国民の税金が一部の既得権益集団の独占事業として、組織維持のために巧妙に仕掛けたもの。
「国家試験合格率実績1%」は論外。これまでの国政・行政のていたらく振りの実態が如実に露呈したに過ぎない。また、この種の「利権の構図」は氷山の一角でしかない。
マスコミ報道がなければ、未だに闇に葬り去られていたであろうことは想像に難くない。 - 「既得権益集団」を安易に受け入れる社会的背景:
- 日本医師会、看護師会、介護士会の立場:
介護サービスの質の低下を懸念する(医師会)、それと日本人介護士・看護師が現行の賃金水準が低下することにつながるとして懸念する(介護士会・看護師会)等の意見があり、
関係機関は外国人受け入れに対して消極的。しかしこれら意見は一部関係者の偏見や偏狭な視野によるもので、妥当性を欠く。
- 介護福祉専門学校の立場:
日本に数多ある介護福祉専門学校の殆どが、「老人介護保険制度」誕生と同時に誕生したのとは対照的に、中国では介護の専門学校そのものが存在しない。
それは中国では未だに、「介護」とは「親孝行」の延長線上にある同義語に過ぎないから。日本の常識である「介護の概念」そのものが存在しない。
介護専門学校が存在しないのは、そのことを象徴している。
これに対して日本では、現行「出入管法」規定の影響によるものか、外国人留学生受け入れに対して門戸を開いていない。なかには門戸を開いているところもあるが、
留学生の応募がないケースや、折角の応募があっても他の学部に変更・推薦されるケースや、若干数名程度だが受け入れてしまっているケースのいずれかである。
学校運営方式は殆ど財団法人形態であり、許認可権を持つ行政に対して立場が弱く、これでは「出入管法」改正問題に取り組む等の発想は持ち得ない。
介護サービスの「宝庫」・日本から多くのことを学びたいと思う外国人は潜在的に多数あるのに…。このままでは、3万人/10年間の中国人留学生(介護部門)が学習してもしきれない程の
介護サービスノウハウ「宝の山」が「宝の持ち腐れ」になってしまう。
- 施設・病院関係の立場:
組織運営は財団法人形態であり、許認可権・助成金・介護報酬費等様々な面で行政に対して弱い立場にあり、前述「学校法人」と同様、新たな問題に取り組む等の発想は持ち得ない。
深刻な人手不足を解消することが目下の最優先課題。これでは折角の貴重にして膨大な「臨床データベース」の「宝の山」が「宝の持ち腐れ」になるだけ。
- 今後の対応:
以上、日本の「宝の山」が「宝の持ち腐れ」になってしまっている実態を検証した。
所詮、低迷する国政・行政に委ねていては埒があかない。何としても、これを本来の「宝の山」に仕立て直さなければならない。
そのためには、先ずビジョンを示して日本の民間活力を総結集することが第一歩となる。その場合、基本的対応のあり方として以下の選択肢が考えられる。
- ベストな方法:
現行「出入管法」の改正を即刻実施する。その上で、フィリッピン・インドネシアとのEPAに基づく看護師・介護士研修生受け入れ業務全般については、
地域振興政策の一環として、国際厚生事業団から同業務引継ぎに意欲と能力をも合わせ持つ地方自治体へ、暫時移管する。世論に訴えてでも実施しなければならない。
現状のままでは(国家試験合格率1%)所詮、展望は開けない。止むを得ない措置であろう。既得権益集団の抵抗はあるであろうが…。中国人留学生については、
既存の介護福祉専門学校で充分に対応可能。元来、中国人とは「筆談」すれば最小限度のコミュニケイションは図れる間柄、国家試験も2~4年の留学研修期間があれば問題なし。
フィリッピン・インドネシア人看護師・介護士については、日常会話20~30%できれば、後は持ち前の陽気さで以心伝心、介護・看護の現場で充分戦力になり得る。
- ベターな方法:
現行「出入管法」の改正を待たずに実施する。これは既得権益集団の抵抗を予想した予備的措置。本来、中国人の日本留学研修の意義は、「日本の介護サービス文化全般」に触れて、
「介護サービスとは何か」を修得してもらうことにあり、必要に応じていつでも「宝の山」から介護サービスノウハウを引き出して活用するための「方法論」を学ぶことにある。
その能力さえ身につけることができれば「国家試験合格後の就労要件」は、あくまで第二義的問題となる。そもそも「介護の概念」が未だ定着していない中国では、
「介護福祉部門」研修のために、日本留学する動機づけすることが難しいことから、現行「出入管法」改正問題の必要性を提唱してきた所以。 10~20年後の「中国・未来の老人介護福祉」は彼等研修生が切り拓くことを期待する。
以上、今後の活動展開ビジョンとは如何なるものか、その具体的対策とは? これ等については、別途、更新版HP「新展開シナリオ」にて述べることとする。以上